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イトーのブログ

ここはゲーム、まんが、映画の備忘録帳でござい 自分用なので文章が自由

カリスマソシャゲーマーのお話です

こんにちは、イトーです。


■千年戦争アイギス

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Fate/Grand Order

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アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ

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 最近はこの3本のソーシャルゲームを並行して遊んでいます。
 遊んでいますというか、なんかずっとどれかやってる気がします。

 原因は簡単で、これらがスタミナ回復制のゲームだからです。
 スタミナが概ね3時間くらいで回復するので、溢れたらもったいない精神でログイン同期になるわけです。すごい。よくできてる。最初にこれ考えた人は悪魔です。


 ただ歪なのも確かで、「何でゲームするのにスタミナとかいうリソース払わなきゃいけねんだよ」と思う人もいるでしょう。
 私はアーケードゲーマーなのでゲームするのにクレジット入れるのは割と自然ですが、まあ一般的には受け入れがたい概念のはず。

 それが何故、どうやって今の世間に受け入れられたのか? こういった疑問を解くには思考実験がよいでしょう。

 

 例えば世が突然ソーシャルゲームによって社会的な評価を得る時代になったとしましょう。いろいろ疑問はあるでしょうが、まあとにかくなったんです。
 そんな時代ですから、人が決めたスケジュールの中でできる限りスタミナを消費するのではなく、もはや全人類はスタミナ回復までの時間を絶対基準として1日のライフスケジュールを定めるほどになりました。

 スタミナを漏れなく管理できることが、即ち自己管理の能力として評価され、社会的ステイタスになる。
 そう。2014年、日本はスタミナに支配された国となっていたのです。


 無論、私もまたそんな時代の住人です。
 名はイトー。職はゲームライター。
 まだまだ駆け出しのぺーぺーですが、先輩のライターが風邪で急遽欠勤となったために突如大仕事が降って沸くことになりました。

 とある高級マンションの一室、その扉の前で私は大きく深呼吸しました。


『先方のスタミナ消費タイムに訪問時間が被らないよう、気を付けるんだぞ』

 脳裏に蘇る先輩ライターの助言を思い返し、思わず腕時計を何度も確認してしまいます。
 意を決し、扉を叩きます。
 ドアを開けて現れたのは、身なりの整った細身なスーツ姿の男性でした。片目側に流したアシンメトリーの髪が洒落ています。


「ああ、どうも。ライターの方だね、待っていたよ。いいコニャックが手に入ったんだ、君も試してみるかい」

 魅力的な提案でしたが首を振って辞します。
 相対する私の声はどうしても固いものになりました。

「あなたがあの、カリスマソシャゲーマー『シンヤ』……」

「よしてくれよ。確かに僕はT大出身だがそれを鼻にもかけずに、あらゆるソーシャルゲームに挑戦してはその全てでランキングトップを強奪する才人と言われることもあるよ。特にすごいのは、それら全てが無課金だともね。ああ、ちなみにT大というのは東京大学の略なんだけど」

「ご謙遜を。シンヤといえば、まさに我々のカリスマですよ! しかし『無課金』でランキング入りしているという噂は、本当だったんですか……」


 言葉の端に疑念が滲み出たのを敏感に察知したのでしょう。シンヤは深く深くため息を吐くと、ゆるゆる首を振りました。

「効率化したスタミナ消費、経験値曲線を見極めたレベルアップ管理、そして何より……無課金で手に入る魔法石を割るタイミング。それら全てが一体となった時、混沌は秩序へと変わり、ランキングスコアへと昇華する」

 彼の言葉の意味は全く分かりませんでしたが、その迫力に私は理屈も分からぬまま感動を禁じ得ませんでした。
 以下は私が後に記したインタビューの一部です。編集長の許しを得たので、特別に一部公開いたします。




――はじめに、本日のスタミナ消費スケジュールはいかがですか?

【シンヤ】:
 15:00から『パズル&ドラゴン』をプレイ、その後15:30にメンテナンスに入るのを見越して『スクールガールストライカーズ』の期間限定イベント、並行して『口先番長』をこなして、『神撃のバハムート』に移った後、今までの傾向からそろそろサーバーエラーの予兆が見られるから16:42には『グランブルーファンタジー』に移ってレベルアップを利用しつつ4.4時間ほどイベントを回し続ける予定かな。

 もちろんそれぞれ、日付が変わる00:00丁度にガチャを引くことは忘れないよ。

――それだけソーシャルゲーム漬けだと、お仕事をする時間がないように思いますが。

【シンヤ】:
 (スマートフォンを見せて)これが僕の仕事さ。僕がプレイしたゲームは、その後必ず爆発的に人気が出る。いわばプロモーションを担っているわけだよ。開発会社からマージンをもらうことで、僕がそのゲームをプレイするんだ。

――それだけのハードスケジュールをこなすのは大変でしょう。何かコツでも?

【シンヤ】:
 コツなんて何も。強いて言えば、全ての集中力を目の前の画面に注ぎ込むことかな。ひどいときは、スタミナが切れるまでずっとゲームに没頭していて、顔を上げると二日経っていたなんてことがあったよ。

――そんなに! オンラインゲームを長時間遊び続けて死亡する韓国のネットゲーマーのようなことがなければいいですが……。

【シンヤ】:
 ははは、大丈夫さ。さすがに僕が力尽きるより、スタミナが切れる方が早いからね。

――課金者のことはどうお考えですか?

【シンヤ】:
 ガチャやスタミナ消費のスケジュールを充分に管理できず、結果、石を割るという最も安易な愚行に出る……欲望を制御できない、最低のクズだね。


――しかし。課金層がいてこそゲームの運営が成り立っているという事実もあるでしょう。

【シンヤ】:

 くどいね。統計的にも無職には課金者が多いと出ているだろう?

――ところで、今年の7月にコロプラさんが新作をリリースするとの噂ですが……。

【シンヤ】:
 もちろん私もプレイしますよ! まだ詳細は知らされていませんが、親指だけで遊べる画期的なアクションになるのだとか。今から楽しみです。




 カリスマソシャゲーマー「シンヤ」のインタビュー記事は幸い好評を得たようで、私は後でひっそり胸を撫で下ろしたものです。

 それから半月後、私がハムサンドを食べながら空いた手で『チェインクロニクル』の魔神獲得イベントを周回していたときのことでした。
 不意に後ろから肩を叩かれました。スマートフォンを取り落としそうになりましたが、危ういところでポーズボタンをタップして机に置きます。


「おお、すまんイトー。……何だぁ、まだ魔神のレベル上限にしてないのか」

 気の抜けた声は先輩のものでした。風邪は随分長引いたそうですが、今ではすっかり快癒したようです。
 先輩は無精ヒゲを撫でながら、


「ちゃんとスタミナライフバランス管理しないと査定に響くぞ。聞いたろ、2課のスズキさん、スタミナ溢れさせてブラジルに転勤になったって」

「しかし、あれはレベルアップ直後にサーバーが落ちたのが原因だと……」

「お偉方はあくまで数字しか見ねえからな。とにかく、要らんと判断したんだろ」


 目を瞑ります。瞼の裏で、顔も知らぬスズキさんにそっと哀悼の意を捧げました。
 石を割る人煽る人、そのまたゲームを作る人。
 課金層、無課金層、ヘビーユーザー、ライトユーザー、様々な人が折り重なるように混ざり合うことで、まるでガラス球の中で循環が成り立つ生命球のごとく、ソーシャルゲームがその奇跡的バランスを保っていることを知る方は、あまりにも少なすぎると感じます。

 不要なユーザーなど、どこにもいないというのに。

 そんな感傷を抱いたのは、きっと先日のインタビュー内容の影響も少なからずあったのでしょう。それが良かれど悪かれど、彼もまた選民意識を持つソーシャルゲーマーでした。
 窓の外を見やります。冷え切った大気に満ちた秋空に、千々に散った雲が静かにたゆたっています。


 今こうしている間も、彼はどこかでスタミナを消費しているのでしょうか?

 ぼんやりとそんなことを考えていると、突然先輩に強く呼びかけられました。自身のスマートフォンを掴む先輩の両手が、かすかに震えていました。

「おい……あの『シンヤ』が、病院に担ぎ込まれたらしい」

 ※

 その後、ほどなくしてシンヤの訃報は世界中に知れ渡りました。
 解剖結果、彼の死因は過労だったそうです。しかし自らのコンディションさえ鑑みる、クオリティオブスタミナの化身とまで評された彼の過労死を信ずるものは世の中にはいませんでした。


 ……彼の最後のインタビュワーである、私を除いて。
 死体となった彼が最期に握っていたスマートフォン。そこに表示されていたゲーム画面を後から聞いて、私は恐れ慄いたものです。

 そのタイトルは『白猫プロジェクト』
 株式会社コロプラが制作した、親指一本だけで遊べるアクション性がウリのソーシャルゲームは、『スタミナが存在せず、いつまでも遊び続けられる』という画期的なシステムで大ヒット。人々はスタミナ管理の呪縛から解放され、後世何代にも渡ってのびのびと人々に愛され続けたそうです――。


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「スタミナ回復がないとコンテンツをすぐ遊び尽くしてしまう上、ログイン動機も弱くなるはずなのに、どうしてこんなに人気なの?」

 そんな疑問を投げかけたかっただけなのに、随分遠くまで来たものです。