電子書籍を3年間で3300冊買った話 (その1:放課後ていぼう日誌, ダンピアのおいしい冒険, BLEACH, 月光条例)
こんにちは、イトーです。
とあるTVゲームの開発ディレクションに携わってプライベートが大わらわになっていたので、2~3年ほど更新してませんでした。
そしてその間に電子書籍でマンガを3300冊買いました。このときはマンガを読むことが主なストレス解消手段だったので。悲惨。
一冊が500円だとして、x 3300するとこの話はやめやめ!!!! やめました。
やめましたがせめて失うだけでなく、後に何かを残したいという気持ちでもって、開発中に買った3300冊から、心に残る個人的傑作を共有しようと思います。
なおネタバレには配慮しますし、引用する画像も今見ても意味が分からないようなものになるよう気を付けてますが、気になる方はご注意を。
早速ここ2~3年のAmazon購入履歴を見返して、目に付いたものを厳選していく作業から。もともと持ってたけど電子書籍で購入し直したケースも含みます。
- 放課後ていぼう日誌
- ダンピアのおいしい冒険
- BLEACH
- 月光条例
- AIの遺電子
- アスペル・カノジョ
- エロティック×アナボリック
- 半助喰物帖
- 居酒屋ぼったくり
- 失踪日記2
- 狂四郎2030
- Thisコミュニケーション
- ねじの人々
- ワンダンス
- アトム ザ・ビギニング
こんな感じにしとこう。書きながら、また別のものが書きたくなるかもしれませんけど。
放課後ていぼう日誌
女子高生がゆるく堤防釣りをする趣味マンガ。
なぜ数多ある趣味マンガからこれを選んだかというと、私は魚が好きだからです。簡単ですね?
正直この手の「オッサンの趣味を女子高生に代行してもらうマンガ」は星の数ほどありますが、このマンガは特に趣味描写の解像度が高い。
果たしてアカエイを捌くシーンをここまでマジメに描く女子高生マンガがこれまでにあっただろうか。
テーマは「堤防釣り」なので、どちらかというとアジなど身近な魚がメインにはなります。
ここには上げてませんが、エサとなる虫のおぞましさ、ヒットしたときの手ごたえの鮮烈さなど、地味でありつつも生き生きとした感触が紙面を通して伝わってきます。
魚の書き込みも他の釣りマンガと一線を画していて、
果たしてアジをここまで美しく描く女子高生マンガがこれまでにあっただろうか。(二回目)
そんで釣った魚は捌いて、
調理する。
これはアジじゃなくアカエイですけど。この調理シーンを読んでから、私はアカエイを食べてみたくて仕方ありません。絶対おいしいでしょ!!
魚の話ばかりしましたが、肝心要?のキャラクター同士のやり取りもほほえましく、特に先輩がちゃんと先輩として魚の締め方や捌き方を教えて、生命に対する責任を示すところが好きです。(ほほえましさ?)
いや、ちゃんと女子高生らしくキャピキャピしてるシーンもあるんですけど。私が気に入ったシーンを上げようとすると優先度的にここに出てこないだけで。
私はKindleとして出版されてる釣りマンガはほとんど読んだと思うんですが、魚や釣り道具、何より「初心者の魚に対する向き合い方」を一番写実的に描いているマンガだと思います。釣った魚、生き伸びようとメチャメチャ暴れるから怖いし申し訳ないよね。あと想像の10倍くらいニョロニョロ跳ねまくるエサも。
以上、一時期釣りマンガを漁りすぎて読むものがなくなって『学研のマンガ 釣り』を買った私からの推薦図書でした。
ダンピアのおいしい冒険
グルメマンガ?が続く。
大航海時代、かつて世界航海を三度成し遂げた(らしい)英国人航海者「ウィリアム・ダンピア」を題材に扱った歴史マンガ。
とはいっても堅苦しい内容ではなく、ユーモアで軽妙な語り口でテンポよく話が進みます。
いちいちオチを付けないと気が済まない作風がとても好みである。
「おいしい冒険」と題されてる通り、航海中に新天地で出会ったものは、見たことあろうがなかろうが大抵食べます。
主人公のダンピアは学者志望の元学生だけど、金銭の事情からイギリスの私掠船(公認の海賊船)に身をやつしているという身の上。彼の知への情熱は決して失われていないが、なにせこの時代の航海は餓死や栄養失調と隣りあわせなので、その探究心はだいたい食に向けて活かされるのであった……。
端々からダンピアくんの身勝手オタク感が溢れ出る。
調理シーンも妙に細かくて、
航海メシ(そのまんま)。粗野だけど美味そう。
グルメ紀行も見所の一つですが、当時の厳しい航海生活が垣間見えるところもまた見所。
書きながら気づきましたが、私はこういう「好奇心」がテーマになっているものが好きというか、「知る」ことに喜びを感じている人物が好きらしい。知ることは自分の中の認識が広がるということで、その瞬間の快感のために生きてるといっても過言ではない(過言かも)。
とにかく世界が広いってのはいいことです。
ダンピアたちのように自ら「新天地」を探し、文献にまとめる旅はそれはそれは楽しい時代だったのだろうなあ。(一方で本を刷るのが大変すぎるとか別の苦労はあったようですが)
これはうらやましくない……(ビスケットについた虫を生魚に移す作業)
イギリスとスペインがドンパチ戦争してる時代だし、航海は嵐や飢餓が日常で、そもそも主人公が属してるのは無免許の私掠船なので、割とサクサクと人死にが出ます。
そういう時代背景もあって、彼らは我々以上に食というものに対して真剣に向き合ってるのでしょうたぶん。
ちなみに作者のページで全話無料公開されてます。
ただコミックだとこういう小粋なマメ知識四コマみたいなものも挟まれて楽しいので、気に入ったら買ってみてください。小麦粉と塩を練って焼いたものの味がする。
BLEACH
僕は ついてゆけるだろうか
君のいない世界のスピードに
という詩があまりにも有名で、読んだことはなくてもこの詩は知ってるという人はいるんじゃないでしょうか。
ほとんどの人が知っていると思うので、あらすじは書きません。気になったらググッて。私は破面編の途中くらいまでは読んでたんですが、そういえば最後まで読んだことがなかったので全巻買いました。(総額から目を背けながら)
とかくオシャレだの空白が多いだのと揶揄されがちですが、余計な情報をそぎ落とし、凄まじいスピード感と力強いハッタリで盛り上げる手管は間違いなく天才でしょう。
こんなに余白を格好よく使うマンガがあるか?
BLEACHはこういったどこか水墨画じみた魅力のある画を端々に入れてきます。
「あっと驚くストーリー」だとか「緻密に構成されたプロット」みたいなものは正直そんなに感じないんですが、とにかく要所要所で神がかった構図を入れてくるので、それだけで物語に充分な推進力がある。キャラクターも皆個性的で、これだけキャラが出てくるのに主要人物が皆記憶に残るのはすごいと思う。
読者の誰もが愛したであろう涅マユリ氏。怪人です。脈絡なく貼ってみました。みんな見慣れてるかもしれないけど、これだけ狂ったデザインはそうはない。
またBLEACHのバトルは大体が「より強い回想や信念でもって盛り上げた方が勝ち!」システム(持論)なので、それが万人にとっていいことなのかはさておき私にとっては難しい設定を覚えていなくても楽しめてとてもいい感じです。
とにかく記憶に焼き付いて離れないデザインセンスと、テンポのよすぎるダイナミックな展開をドカドカと叩きつけてくる『BLEACH』。パワー系名作です。
月光条例
誰もが知る「おとぎ話」たちが実は全て独立した別世界であり、おとぎ話の「キャラクター」たちは物語を本の中で演じ、現実世界の人々を喜ばせるために毎日を生きている。
しかし何十年かに一度、月が青くなるとき、おとぎ話のキャラクターは狂気に呑まれ、現実世界を破壊し尽くしに本の中から現れるのであった。
別名スーパーおとぎ話大戦と呼ぶそうです。(私が)
人間に迎撃されながらも、原作で母から託された葡萄酒を「本能的」に守る、狂った赤ずきん。
私はこういう描写に弱いんだなあ。
いきなり話が逸れましたが、主人公は「岩崎月光」。
ひねくれ者で、暴力的で、直情的。
いわゆる藤田和日郎作品にありがちな主人公ですが、そのニヒルでハードボイルド、それでいて時々年齢相応な純粋さを見せる生き様がいいやつです。
右はヒロインの「演劇部」。
この作品は色々あってキャラクターをあまりそのまま名前で呼びません。その理由は、物語の後半になってようやく明かされていくのですが。
エンゲキブかわいいな。個人的ベストカットを意味もなく貼ります。
おとぎ話のキャラクターたちは、蒼い月光「ムーンストラック」を浴びると、自我のようなものが沸きあがります。
それは『シンデレラ』の何の努力もなく運のみによって幸運を得た自分自身に対する疑問であったり、『一寸法師』が自らの矮小さをコンプレックスに感じて姫を騙して「打ち出の小槌」を手に入れたことへの罪悪感だったりするわけですが、
主人公は非常に根性が曲がっているので、疑問に思ったことは全て突っ込みます。いや、むしろ真っすぐなのかな……。
『フランダースの犬』のネロが、原作では零すことのなかった(その前に死んだから)弱音を吐くシーンでも、
- 「だって本当に苦しかったんだもん! つらかったんだもん」
- 「おじいさんも死んで家もなくなって絵のコンクールも落ちて……」
- 「なんにもなくなっちゃった気持ちが月光サンにわかるの!?」
- 「なんにもなくなっちゃったら絶望して『最低』の人生だって言ってもいいじゃない!?」
『フラ犬』(略)の主人公にこんな返しがあるか。鬼か。でもそういう話です。
こういう、読者がおとぎ話にかつて疑問に思ったであろう箇所、胸にしこりが残ったであろう箇所に容赦なく熱い想いを注いでいく作品。
ところで、私はメタフィクションが好きです。
好きな映画で言えば『ラスト・アクション・ヒーロー』が真っ先に出てくるように、「物語が人に与えてくれる力」というものを愛しく思っているところがあります。
この世界では、「読者」はおとぎ話の住人にとって特別な存在です。
おとぎ話の住人にとって「読者」は自分自身を見て楽しんでくれる存在意義に等しい存在であり、また「読者」にとってもおとぎ話を含めた全ての「物語」がかけがえのないものであることが描かれます。
『月光条例』はそんな、物語と読者のお互いの在り方を真摯に描いた作品です。
『青い鳥』の主人公チルチル。
全ての物語がハッピーエンドにならないことに疑問を抱いた彼は、この物語の全てを揺るがすような事件を起こします。
急に余談に入るんですが。(余談ばっかですが)
「物語」は疲れた人生を癒してくれる一要素であり、
忘れた夢を思い出させてくれる一因であり、
誰もがかつては縋った理想論の一つだと、私はそう思います。
ひどく俗っぽい例を挙げると、とにかく仕事が忙しかったときの私が精神の均衡を整えるために縋っていたものが、毎週月曜・水曜・木曜に欠かさず刊行される漫画雑誌『ジャンプ』『サンデー』『マガジン』『チャンピオン』でした。
虚構には人を救う力があります。
おとぎ話は、そんな人々が生きる力をもらっているフィクション全ての源流ではないか?
そんな想いから始まっている物語が『月光条例』なのだと私はぼんやり思うのです。
この作品は扉絵が寓話風になっているのがウリの一つなので、気に入っている扉絵を唐突にインサート。恐ろしい。
藤田和日郎は『マッチ売りの少女』の悲劇的な終わり方に憤りを覚え、「悲しい結末を迎える主人公の、運命を変えてやりたい」という悲願を抱いたそうです。
その結論が描かれた作品、『月光条例』。
藤田和日郎の代表作『うしおととら』『からくりサーカス』いずれも大好きな私ですが、『月光条例』はそれらからダントツな差を付けて一番。
まあ、物語が佳境に入るのが遅いとか明確な欠点はあって、実際そういう理由があって昔の自分はイマイチ物語にノレず、読むのをやめちゃったんですが。改めて読みなおすと、こんな傑作があったのかと。こういう大人になると全く見え方が変わるという作品はたまらんな。(『めぞん一刻』やら『絶対可憐チルドレン』やら『ゴーストトリック』やら)
とにかく大好きで、私のココロに確実に傷を残した作品です。
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あれー、こんなに書くつもりじゃなかったんですけど。
毎回あんまり書きすぎると終わらないので次は控えようかと思うのですが、私の忌憚なき予想を言うと、多分途中であきらめるか減らすと思います。
それでは。