異世界転生したお話です
こんにちは、イトーです。
風の噂では、異世界転生モノというジャンルが流行っているみたいですね。
ご存じない方にわかりやすく説明いたしますと、いわゆる貴種流離譚みたいなものです。明快ですね?
噂では異世界転生モノは、どんな作品も「トラックに轢かれて命を落とす」という枕から始まるとのこと。大喜利のようでステキです。妙を感じます。
ところで私、目が覚めたら役所にいました。
役所とは、国や地方公共団体が行政事務を行なっている組織のことです。区役所とか市役所とか、そういう類のアレですね。
「…………」
目を擦ります。頬をつねり、眉にツバをつけましたが、目の前では変わらず横並びの受付と、それに並ぶ人々がいました。
妙なことに、受付に並ぶ人たちは老若男女が入り混じり、服装に至ってはスーツやパジャマ、特攻服(!)を着ている者までいる始末。
役所に用事があった記憶はないのですが、何となくの日本人気質で私もそこに並んでいると、やがて私の番になりました。
誰何されたので名前と年齢を告げますと、受付嬢の表情がくもりました。
「……少々お待ちください」
奥へ入った受付嬢と入れ替わりで戻ってきたのは、目の細いスーツの男性でした。
「申し訳ありません、お客様。イトー様ですね」
「はい」
「お客様は2017年11月、杉並区でメッサーシュミットに轢かれてお亡くなりになったとありますが、ご記憶にはございますか?」
その瞬間、脳髄の奥で火花を散らしてシナプスが繋がりました。
眼前が赤く明滅し、血液の巡る音が耳元でごうごうと響きます。同時にある光景がよみがえりました。
猫に迫ろうとする一人乗り用の車。その前に飛び出る私。そして、勢いを殺しきれずに突っ込んでくる小さくて赤い車体。
その「最期の記憶」を思い出した私は、その呟きを飲み込むことができませんでした。
「あのちっちゃい車、メッサーシュミットって言うんですか」
「メーカーはドイツですね」
戦闘機の方なら知ってるんですけども。
あらためて周囲を見渡します。どこからどう見ても、やはり役所です。
「つまり、私の死は予定外?」
「ええ」
「でしたらなんかこう」周囲を眺めて、「神様空間みたいな場所には行けないもんなんですか」
「そんなものはもうずっと前に廃止されましたよ。効率的じゃないというお神からのお達しで。
神様空間式だったのは今から二十年前でしたから……ちょうど、現世ではその時に転生した人が仕事についてるころじゃないですかね。小説家とか」
ああ、だから異世界モノってみんな同じ始まり方なんだ……。
私が心の中で頷いてると、ゴトリと重たい音。見ると、机に分厚いファイルが開かれていました。
「それでは後も詰まってるので、転生先をお選びいただけますか」
「業務的だ……」
「今回は予定と異なるお亡くなり方をなさりましたので、不慮の死保険の契約内容に基づきまして、記憶を引き継ぐオプションを受けられますが、いかがなさいますか」
「あ、じゃあお願いします」
答えながら、ファイルに目を通します。私が選べる転生先はこのような案配でした。
- 1867年 日本/ 熊本県(旧士族)
- 1991年 ソマリア(無職)
- 1993年 ボスニア・ヘルツェゴビナ(政治家)
- 2011年 シリア(兵士)
「…………」
「いかがですか」と受付さん、満面の笑顔。
私の歴史観が間違っていなければ、これ全て内戦中だと思うんですけど。
顔を背ける受付さん。舌打ちの音が響きました。
「何しろ予定外ですから、このくらいしか空いてないんですよ。トラックならまだしも、メッサーシュミットだなんてねえ。まあいいじゃないですか、強くてニューゲームできるんですし」
「辛くてニューゲームですよこれ」
そんなやり取りをしている間に、背後の人の気配はどんどん増えていきます。ああ、分かる。他のお客さんたちが私の後ろで地面をつま先で打ち鳴らしているのが聞こえる。
つい「あ、じゃあこれで」とソマリアを指さしそうになるのをこらえて、私はファイルのページを繰っていきます。
正直どれもどっこいの選択肢ばかりでしたが、ある一つの転生先が目に留まりました。
「……じゃあ、この15才でトラックに轢かれる女子高生で」
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女子高生になったら
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