ゲームの運営のお話です
こんにちは、イトーです。
私が今開発を担当しているのは、いわゆる「運営型」のゲームです。プラットフォームはモバイルではなくコンソールで、いわゆるWorld of TanksやWarframeに近いものだと想像していただければ概ね間違ってはいません。
「先輩、運営用のデータってもう上がりましたか?」
気安く声をかけてきたのは、運営を担当する後輩の男性社員です。肩まで届きそうな長い髪からは軽薄な印象を受けるかもしれませんが、私は彼の的確な運営能力に信を置いていました。
「ごめん、まだもう少しかかりそう。さっきコンバートでエラー起こしちゃって」
「はあ、18時くらいまでにはお願いしますね」
その後はコーヒーを飲みながら、彼が「KPIをより向上させるためには」というテーマで一席ぶるのに耳を傾けます。経済学部卒なだけはあって後輩は数字に強く、事実今まで彼が打ち立ててきた運営方針は全て的確なものばかりでした。ところでKPIって何でしたっけ。KIA(参考)なら知ってるんですけど。
「すみません、そろそろ来月のイベントスケジュールを考えないと」
そう言うと、後輩はそそくさとその場を離れていきました。
彼の後を追ったのに、何となく好奇心が沸いたという以上の理由はありませんでした。精神集中でもしているのか、彼は次期計画を立てるときには決まって誰の目も届かない場所へ向かう習慣がありました。
足音を殺してついていくと、やがて後輩は廊下の奥にある一室へ入りました。表札には「サーバールーム」という字が書かれています。
……こんなところで一体何を? ざらついた不安に胸の奥を撫でられ、私はほとんど何も考えずに扉に手をかけました。
重い扉を開いた先から目に飛び込んできた光景に、私は言葉を失いました。
そこには宇宙のような空間が広がっていました。
いいえ、違います。私はすぐに認識を改めました。広大な暗黒空間に見えていたのはブラックライトに照らされた薄暗くも広い室内で、星々の輝きのようだったのは部屋に所狭しと押し込められたいくつもサーバーマシンの光点です。
その大部屋の中央、誰からも決して見逃されないであろう質量と存在感を持って、「それ」は私を見下ろしていました。
惑星と見まがうような機械の球体。横に幾筋も引かれたモールドを境に、機体は左へ、右へ、互い違いに回転し続けています。その謎の巨大機械を中心に、腹腔を響かせる重い駆動音が部屋に充満していました。
その重音を切り開くように、リノリウムの床を叩く甲高い足音が部屋の奥から近づいてきました。
薄闇も手伝って最初はぼんやりとした輪郭程度しか見えなかったそれが、やがて一つの見慣れた人の姿を形作ります。肩に触る長い茶髪、親しみの沸く柔和な笑顔。後輩です。
彼は大きく手を広げると、いつもと全く変わらない口調で言いました。
「先輩、気付いてしまったようですね。これこそが我々の運営型ゲームを隆盛たらしめてきた中核、マザーコンピュータであると」
あ、パソコンだったんですかこれ。アームズフォートを連想してましたが、どちらかというとGlaDOSとかの類なんでしょうか。
「マザーコンピュータ? ……まさか、いつも次期計画を考える時、どこかへ姿を消していたのは」
後輩は笑みをより大きく、凶悪に深めることで答えます。
「ええ、最高ですよこいつは! マザーコンピュータは全てを教えてくる。利益を最大化する施策を。より射幸心を煽る術を!」
そうして彼は揚々と語り始めました(聞いてもいないのに)。黎明期から今までの運営型ゲームの全ては、各社が擁するマザーコンピュータ―による運営であり、ヒトを超越するより高度な知性へと発展した彼らの代理戦争でもあったと。彼らは会社に利益をもたらす代わりに、どのマシンが〈最も進化した叡智〉たりうるか争い続けるためのフィールドを求めたと。
「ということは、まさか、かのコンプガチャも……」
「その通り。あの頃は法規制に対するシミュレーションが万全じゃなかったようで、いくつかの人工知能が競争に負け、プログラム凍結処分となったそうですがね」
「……マザーコンピュータの間でもルールはあるのか」
「当然ですよ。一般に自らの正体が露見してはならない。運営型ゲームの立場を脅かしてはならない。利益を先取りし、後の業界を衰退させるような運営を行ってはならない」
ガチャリと、背後で鍵がかかる硬質な音。閉じ込められたと気付くのと同時に、全てのサーバーマシンが赤いエラーランプを点けて周囲を血のような色で塗り替えます。低く唸るアラート音が焦燥感に拍車をかけました。
「そしてもちろん、このことを知ったあなたを帰すことはできない」
咄嗟に私は後ろ手に隠していたスマートフォンを操作します。タッチパネルの左上隅をタップし、「データの送信」を実行。
効果は覿面に現れました。
横回転を続けていたマザーコンピューターの動きが止まり、それに合わせて周囲のサーバーマシンのアラート音が鳴りやみます。さながら女王の変調を慮る兵隊たちのように。
小爆発。一瞬炎が部屋を明るく染め上げ、マザーコンピュータから弾かれたと思しき拳程度の機械部品がサーバーマシンの一つにめり込み、破壊しました。
「何だ!? 何が起きた!?」
「わからないか……? お前に頼まれていた運営用データを今送ったんだよ。ただし、パラメータにうっかり全角数字が入ったままのデータをな!」
大抵の場合はそれだけでクラッシュするようなことはありませんが、プログラマさんのうっかりで致命エラーに引っかかってしまうことがたまにあります。
「イトーさん、何でそんな初歩的なミスを!」
ごめん。
そうしている間にもマザーコンピュータは鋼が軋む異音をますます大きくし、次第に今までとは逆にボディを回転し始めます。瞬く間に速度を増していくその球体は、関節を曲がってはいけない方向に歪めていくような危うさがありました。
どこかから取り出したキーボードを必死に叩き、異常を止めようとする後輩の姿は哀れを催すものがありました。しかし私は決して手を差し伸べることなく、くるりと踵を返して出口へと向かいました。
KPIなどを基準とした売上向上施策というものを、私は決して否定することはありません。むしろ洗練された理論はそれを操る者の時間を節約し、より高いサービスを人々に提供することを可能とするでしょう。
しかしそれだけに囚われ、機械にのみ縋り、自らの魂でユーザーの皆様を楽しませたいという気持ちすらなくなってしまえば。
数字こそ伸びたとしても、きっと真にユーザーに喜んでもらえることはなくなってしまうのではないでしょうか。そしてドラッグのような即時的な刺激だけではない、長期間にわたる健やかな体験こそが、業界をより賑わせてくれるものだと私は信じているのです。
サーバールームの分厚い扉を後ろ手に閉めます。その直後、背後の扉の向こうから、フロア全体を揺るがすほどの爆発音が伝わってきました。
私はオフィスへと戻ります。決して振り返ることなく、来た道を違えぬように。
全角数字を半角に修正し、真っ当に楽しめるように直したデータをユーザーの元へ送り届けなければいけないのです。
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といういきさつもあり、弊社では人の手によって温もりある運営をおこなっております。(うそ)
ゲーム業界の未来について
こんにちは、イトーです。
『シュタインズゲート・ゼロ』が発売されましたね。
空想科学シリーズは(カオスヘッドを除けば)大変好きな作品ばかりですので、今作も大変楽しみにしています。ソフィーのアトリエ終わったらやります。
さて、タイムスリップものの話になると、大体「過去と未来、行けるならどっち?」と訊かれ、次に「行った先で何するの?」と質問されますが、私の答えは決まっています。
未来です。
そして、将来のゲーム業界の環境を確認するのです。
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そんな益体のない話をルームシェア中の男としていたところ、彼は突然緩んでいた表情を引き締めました。
「実は、俺が30年後からこの時代へタイムスリップしていたとしたらどうする」
「ほう」
興味ありげに私は頷いていますが、その実内心では奴の正気を三度ほど疑っています。何言ってるんだろうな、今逃げても追いつかれるかな。
「信じられないかもしれない。だが、本当なんだ」
角刈りでがっちりとした体格の彼が真面目な顔になると妙な威圧感があり、私はつい気圧されるように一歩後ろへ下がります。
私はもう一度、彼の細い瞳を見返しました。やがてその瞳の奥に、見慣れぬ感情が揺らいでいることを、類まれなる洞察力で薄っすらと感じ取ります。まるで私を見守る翁のような、慈愛と落ち着きに満ちた色。
ふと『シュタインズ・ゲート』の物語を思い返しました。電話レンジ。精神だけのタイムスリップ。
全身が津波のような戦慄に晒されました。
「まさか……」
「さあ、急いでくれ。この時間軸に居られる期間はあまり長くないんだ」
真偽を質す時間はありませんでした。私は半ば焦慮に任せて、一番気になっていたことを尋ねます。
「家庭用ゲームは、コンソールはまだ遊ばれていますか」
「まあぼちぼち。というか、家庭用ゲームとソーシャルゲームの境はもうとっくになくなっていて、リッチかつ他人とゆるく関われるゲームが主流だな」
彼に気付かれぬよう、心の中で胸をなで下ろしました。家庭用ゲームを開発している者として、私もまたその未来に少しでも寄与できたのでしょうか。
「他に何か質問はあるか?」
「あー、えっと。VR技術は?」
「最近のゲームはもうほとんどVRだ。立体視方式じゃなく神経接続式でブレークスルーがあってな」
「すごい。未来技術だ」
「今やPlayStationといえばコレさ」
と彼が取り出したのは、梅干しほどの大きさの球体が付いた一本の棒でした。ちょうどゲームセンターの筐体のレバーのようです。艶やかな表面に映り込む自身の顔を眺めつつ尋ねます。
「それを? どうするの」
「頭に刺す」
未来技術……。
「えーとじゃあ、未来のゲームハードは?」
気を取り直してまた別の質問を投げかけます。
「PS7とWiiiiiiiii、あとXbox 255が出た。ローンチタイトルはMinecraftと……」
「まだマイクラ移植続いてるの? 息長すぎるだろう」
「ラグナロクオンラインも運営続いてるぞ」
なんだか未来もあんまり今と変わっていないようだなあ、と安心やら残念やら思っていると、急に彼の身体が光の粒子に包まれ始めました。低い天井へ、螺旋を描いて舞い上がるそれを見上げながら、彼は肺腑から大きく息を吐きました。
「すまない、そろそろ時間のようだ」
「精神だけタイムスリップしたという話だったのに、身体が脚から消えていってるけど……」
整合性の取れた説明を返すより先に、彼は僅かな光の残滓を残し、元からそこにいなかったかのように六畳間からその姿を消しました。
……不思議な体験でした。まるで夢でも見ていたような心地です。
静かになった六畳間の中、私はぼんやりと蛍みたいに漂う光に手を伸ばします。指先をひらりとかわしたそれが私の胸に付着したと思うと、粒子は1つが2つに、2つが4つに、瞬く間に増えていき、今度は私の周囲で螺旋を描き始めます。目が焼かれそうな眩しさに囲まれているというのに、一切苦痛がありません。不思議な感覚はやがて、「私も過去へ飛ぶのだ」という謎の確信に変わりました。
飛ぶ時間の幅を、肌が感覚として伝えてきます。おおよそ5年前。まだWiiUすら発売していなかった頃。
光の奔流で埋め尽くされた幻想的な光景に包まれながら、ふと私は「ライフストリームだ」と誰にともなく呟きました。
そうだ。過去に飛んだら、FF7のリメイクについて伝えるのがいいかもしれません。それと、トリコの発売発表も。
ゲーム業界が停滞しているという人がたまにいます。しかしこうして顧みれば、業界が確実に前進し、新たな可能性を日々生み出し続けていることは明らかです。未来に希望を抱けないならば、過去を振り返ればよいのです。
周囲を取り巻く輝きが次第に加速していきます。到着が近いのでしょう。
ところで、過去に着いたらとりあえずジョン・タイターと名乗ってみたいのですが、5年前にはすでに「シュタインズ・ゲート」は発売されていたでしょうか。ますます加速する光の奔流に焦りを覚えながら、私は記憶を必死に探るのでした。
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調べたら、360版が7年前発売でした。
セーーーーーーフ。
最近のゲームのおはなしです
こんにちは、イトーです。
近頃はいろいろな大人気ゲームの発売が目白押しですね。当ブログもようやく本来の目的(作品感想の備忘録)を遂げられそうです。
Until Dawn, マリオメーカー、いろいろある中 一番世で賑わいを見せているのは何といっても『MGS5』でしょうね!
私は魔導物語A・R・S(PC-9801版/復刻)を遊んでいます。
1990初頭のRPGで、ぷよぷよの元になったゲーム(の外伝)です。
もうなんかあまりにも古すぎて、この平成の世で参考にしようにもする部分があまりないのですが、強いて挙げるなら「ファジーパラメータシステム」が特徴的なゲームでしょう。
与えたダメージ量や、今の体力などを数値ではなく文字で表現するというシステムですね。例えば、以下のスクショの右欄は今の体力の表示です。
(画像は魔導物語1-2-3 PC9801版のものです)
元気だということはわかったよ。
パンツを探しています
こんにちは、イトーです。
「俺のパンツ知らない?」
私とルームシェアしている男はいつも唐突です。
何でこいつは服を着てないのかな、と訝りつつ私は首を横に振りました。
彼は憤然と、
「そんなはずはない」
なぜそんな自信満々に。
「俺が洗濯機に放り込んでおいたパンツがない。お前はさっき洗濯機を使っていただろう。つまり俺のパンツも、お前の洗濯物に混ざって干されているのではないか」
「お前のパンツと一緒に洗っちゃったことの方が事件なんだけど」
ともかく確認させろとうるさいので、部屋に招いて洗濯物を一つ一つ指差します。
「これは?」
「違う」
「こっちのトランクスは」
「違う」
もう品切れです。私が今さっき履いたパンツを除けば。
……私はおもむろにズボンを下ろしました。
「………………………………違う。いや、違わなかったらもうそのパンツあげてたけど」
「俺も要らんけど……」
そうなるともう私の部屋にパンツはありません。八方塞がりです。
あれから数日経ちますが、パンツは今も見つかっていません。
私はこれから、私が履くパンツ全てに「コレはルームシェアの奴のものなのではないか?」という疑いを抱きながら生きていかなければならないのでしょうか。
それは白い布地に落ちる一滴の染みのようです。私の人生が汚染されていきます。まるで、洗濯物に混ざった他人のパンツのように(そのまんまですが)。
私は今日もパンツを探しています。
追記)
『パンツパンツと見苦しい』というご意見を多くの方から頂戴いたしました。申し訳ございません。
追々記)
お詫びといたしまして、私とルームシェアの者はどちらも美少女であることを明かします。
追々々記)
さらに女子高生でもあります。中間試験が憂鬱です。
はじめに
こんにちは、イトーです。
ここは私が鑑賞したゲーム、まんが、映画、他もろもろの概要と感想を記しておいて、後の肥やしとするための備忘録です。
今回はただの挨拶にするつもりだったにせよ、もう少し気が利いたタイトルがあったのではないかと思います。
タイトルといえば、私はネーミングセンスがないのだろうなあ、と自覚したエピソードがあって。私が勤める会社で「新規で企画を立てるゲームのアイデアをプレゼンしあう会」というのが開かれたんですよ。(今更ですがテレビゲームを作る会社に勤めてます)
私が当時プレゼンしたのが次のようなゲームでして、
1. 3Dモデルの男の子 or 女の子を育てるゲーム
2. 育てる子の外見はランダムパラメータで決定される
3. 子が成人したら「社交界」に出す。
4. 「社交界」ではオンラインでつながった他のプレイヤーから、持参金と共に結婚の申し込みがある。受けるかどうかは相手のキャラクターと、持参金の額で決めてよい。
5. お見合いが成立したら、二人の子が生まれる。生まれた子は両親のパラメータに応じて外見が決まる。
6. これを何度も繰り返して、理想の外見の子をつくりだせ!
7. 仮タイトルは『人間牧場』。
ちなみに一票も得られませんでした。
その後 内容はまったく同じまま、タイトルを『ラブ♥ソサエティー』にしたら好評を得たので、「人間はものを判断するとき、最初に抱いたイメージを重視するんだなあ」と学びました。人間牧場の方がわくわくすると思ったんですけど。
そういうわけなので、今後の記事を書くときはキャッチーなタイトルを書くよう努力してみたいと思います。『〈ダンジョン飯〉から学ぶ正しい食育』とか。これはただのウソか。ウソだし、そもそもキャッチーじゃないか。