イトーのブログ

ここはゲーム、まんが、映画の備忘録帳でござい 自分用なので文章が自由

ランス10おもしろかったって話

 こんにちは、イトーです。

 2018年の7月~9月は、ゲームの名作ラッシュでえらいことでしたね。DETROIT、オクトパストラベラー、スパイダーマンのやつ。

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 その間、私は『ランス10』を遊び続けてました。プレイ時間はたぶん40時間ほどで、ようやくグランドエンディングを見終わったところです。このゲームすげえ面白かったので、感想を書きます。ネタバレは、核心的な部分は一応伏せてます。

 

 その前にこのゲームについての概要なんですが、

  • 20年以上続いた歴史的RPGの最終作
  • 主人公・世界観はずっと同じ
  • 18禁
  • シリーズに出た人物全員で、(一応)世界を救う話

 18禁、いわゆるエロゲーなのでものすごい人を選ぶゲームではあるんですが、本稿ではそのあたりあんまり触れません。触れない。はず。

 

 

シリーズ総決算であり「全面戦争」

 本作ですがシリーズ最終作ということもあって、総決算的内容になっています。

 具体的に言うと、今まで登場した主要キャラクターが全部出る。(※1)
 丼勘定ですが、たぶん戦闘で使えるユニットだけでも100種類以上いるんじゃないかな。

 主人公はもちろん、それまでのナンバリングで出てきたヒロイン(毎作違う)は全員再登場するし、敵陣営で設定だけ存在してて「魔軍のケイブリスという奴は最強らしい」とか囁かれてただけの奴もようやく出てくる。

 

 何でこんなことになってるかというと、今作のテーマが「人類と魔軍の全面戦争」だから

 今までのシリーズでは魔軍は内部分裂していてほとんど人類圏には出てこず(だから設定だけで未登場の敵も多かった)、たまにどこかの国に魔人という、ムドーとかバラモスくらいの敵が攻めてくるというスケール感だったのが、今作になって急に世界戦争に。

 理由としては魔軍の2派閥のうち片方が勝っちゃって「人類滅ぼす」という意志統一がなされたからだと物語られてますが、そんな細けえことはいいんだよ。最後に戦争しようぜ、テメェらと俺らでよ!! という開発者のテンションを感じます。男の子だからね。

 

 お話としては上の画像でいう「ヘルマン」「リーザス」という国を、今までのシリーズでそれらの国を(結果的に)救ってきた主人公・ランスが「人類軍」としてまとめ上げ、各国に攻め入ってくる超強い「魔軍」に対抗しよう、というもの。プレイヤーはターンごとに4国のどれかへと主人公率いる精鋭隊を派遣して、何とか盛り返そう、と試みることになります。オラ行くぜ! オラ行くぜ!

 

たのしい絶望周回

 とまあそんなセットアップなんですが、人類と魔軍を比べると明らかに魔軍の方が数も質も高いので、基本的に人類は勝てません。具体的にゲーム中に登場する個々人の「レベル」で言うと、人類側はトップクラスでLv70くらいなんですけど、敵幹部たる魔人はLv200くらい。あと全ての攻撃が効かない小学生みたいなバリア「無敵結界」付き。

 

 実際ターンが進むごとに人類4国はどんどん兵力を減らしていって、プレイヤーの救済が間に合わないと滅亡します。というか、まず全部は助けられません。で、滅亡させられた国にはだいたいシリーズヒロインの誰かがいるんですが、このゲームは18禁なので、そういうことになります。えっちだけど、すごい胸糞。

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 何とか派遣を繰り返せば粘れるし、主人公のランスは無敵結界を破れる世界に二振りしかない武器「魔剣カオス」持ち(※2)なのでうまくいけば8人にいる敵の幹部「魔人」を倒すこともできるんですが、焼け石に水。状況はどんどん悪くなります。具体的には、

  • 一定ターン過ぎると主人公の陣地が敵に見つかって大軍が攻めてくる
  • 敵のボス「ケイブリス」が魔人から魔王に覚醒してほぼ絶対勝てなくなる(ゲームは続くが詰み)
  • 人類死亡率が一定割合を超えると「勇者」が出てきてケイブリスを殺してくれるが、いろいろあって主人公側も殺される(実質のタイムオーバー)

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 唐突に挟みますが、ケイブリスは鬼畜王のデザインの方が好きだったな。愛嬌があって。いちおうリスがモチーフだと思われる。

 

 一週目はホントにしんどくて、ある国を助けてたら、その隙に別の国が滅亡してその国所属のユニットが使えなくなるし、攻め込むにも戦力がないから引きこもってたらケイブリスが魔王になって人類全滅しました。

 人類が負けると、国が滅亡した時以上にメインヒロインたちがひどいことになるのでどうにか避けようと頑張るんですが、二週目も全然勝てなくて、三週目でようやくコツを掴み始めるという絶望周回。でも実際、人類はそのくらいの苦境に置かれてるってことなんでしょう。絶望シミュレーション。しかも負け方によって様々なバッドエンドに行き着く凝りようです。

 とはいえ救済措置がないこともなく、周回するごとに貯まるボーナスと知見を活かせば、明らかに絶望的だったゲームバランスを捻じ曲げて、ハッピーエンドをたぐりよせることも可能。というか、実際のところ周回しまくって無理矢理ハッピーエンドにするゲームです。

 

絶望周回たのしい

 でもそのくらいの絶望的状況を我が身で体感したからこそ、歴代キャラクターと一緒にケイブリスを倒せた時はまさにハッピーエンドに辿り着いた達成感がありました。

 でも、じゃあ単にマゾいゲームバランスだったらいいのかというと、そうじゃなかったと思うんですよね。

 変な表現なんですけど「プレイヤーが負けた」という事実に対する責任の取り方が誠実というか。

  • もう明らかに詰みなんだけど、進めざるを得なかったり(そしてバッドエンドへ)
  • 生き残ったごく僅かな人類で島国に引きこもる展開になったり
  • ケイブリスを倒したとしてもとある条件の見落とし(ちゃんと事前に提示されてる)によって結局主人公たちは死んでしまったり

 あまり書くと憂鬱になるので書きませんが、非常に多種多様な「負け方」が用意されてるんですよね。あと敵含めいいキャラクターは多いんですが、そいつらを救って仲間にできるかどうかもすごい分岐が用意されてます。(そしてそういうのは大体難易度が高い)

 そして、その結果に対する「ペナルティ」が、思い入れのあるシリーズキャラクターの凌辱だとか、頼りがいのあった主人公の惨めな死に様だとか、プレイヤーへの嫌がらせでしかない形(褒美になる人もいるでしょーが)で与えられるので、惨殺された私は周回ボーナスを握って「新しく始める」ボタンにマウスを叩きつけるわけだよ。

 

 まあ私は上で書いてるほど全分岐をやり込んだプレイヤーではないのですが(むしろ面倒で飛ばせるところは飛ばしてる)、細やかな作り込みは常に新しい発見につながり、期待を与えてくれます。

 

歴代キャラこれくしょん

 ちなみに今更ですがこのゲーム、戦闘のリザルトでキャラクターがカードとして出てきます。

 出てきたキャラはパーティーに入れて使ってもいいし、前線に出さなくても「その陣営の総戦力」という基礎パラメータが勝手に加算されるので腐りません。

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 この仕組みが最善だとは思いませんが、このおかげでキャラを集める理由を失わないというのはすごくよい点だったと思います。キャラ集めは本当に楽しくて、しかもキャラ総数が膨大なもんだから、ゲームの最後半まで「新しいキャラ出た! ああこいつか、懐かしいなあ!」とほくほくしてました。

 設定上強いキャラは実際強かったりね。弱い設定のキャラは本当にカスみたいな性能ですが。(何かしら使い道はあるとはいえ)

 

不満もあるよ

 ゲーム自体はとても楽しんだんですが、インターフェースのあまりの説明不足と使いづらさは何とかならんもんかと思います。いやもう、いつものことなんですけど。

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 このUIを見て、初見で「一つの陣営のキャラは1キャラしか戦闘に出せませんよ」と分かる人間がどれほどいるのかって話ですよ。この画像で言うと、画面半分に並んでるキャラはみんな「JAPAN」って国の所属なので、一体しかパーティーに入れられません。

 一応「(その国の)部隊を率いるリーダーを選んでる」って体らしいので説明自体は付くんですが、最初は意味不明でしかない。まあ一度分かったらその後は迷いませんが。

 

 あと実は詰んだ状況であることに気づかぬまま進めて、だいぶ経った後にそれに気づく(分かる人に書くとシャリエラ or 猫とか)という非人道的な罠が割といくつか潜んでるんですが、これもバッドエンドの苛烈さとかと同じく「自分の行動にちゃんと責任を取らせる」ものだと思えばまあいいか。

 

 最後に、これは工数トレードオフとして考えればいいのかもしれないですが、戦闘の演出はしょっぱめです。まあテンポはいいけど。

 

おわりに

  いろいろ書きましたが、総じて言えば「シリーズの総決算を、余すことなく、恐ろしい物量でもって楽しませてくれて、俺たちの思い出にケリを付けてくれた」ゲームでした。あのエンドロールからは「もうマジで最後だからな」というメッセージを感じる。

 

  結論としてランスシリーズをどれか遊んだことある人はさっさと買ってしまえばいいと思います。

  遊んだことない人は……1作目はリメイク出てるものの色々古すぎるのでやめた方がいいというか、私も初めて触ったのは戦国ランス(7作目)でしたし、途中からでも全然楽しめたので、wikiでも見つついきなり10から触ってもいいと思います。女の子がひどい目に合う話と、主人公の好物が「へんでろぱ」とか「ピンクウニューン」だという独特な世界観を許容できるなら。(※3)

 

 

 

※1  過去に死んだやつを除く。

※2  もう一振りは「聖刀日光」で、カオスもそうだがこの安直なネーミングが時代を感じさせて好き

※3  結局どんなものか分からないままだった  へんでろぱ - ひつじ小屋別館

また自転車で牧場を目指して90km走ったけど、着いたときには閉まってたお話

 こんにちは、イトーです。

 

 タイトルの時点ではバッドエンドのように見えるでしょう。その通りなんですけど。

 私は以前も一度、同じ埼玉の牧場『榎本牧場』に走って行ったことがありまして、その結果は以下の記事に詳しいんですが、まあ、結果はタイトルから察してください。

helloito.hatenablog.com

 

 それはとにかく、自転車で東京から埼玉の牧場に行ってきたんですよ。

 ロードバイクを買ったときもそうだったんですが、私はふっと衝動が降りてくることがありまして。その日も部屋の片づけをしてたらいきなり外界へ飛び出したい気持ちがふりきれまして、

「漫画こっちにしまって、この本棚はいったんばらして、今日はいい天気だから牧場に行きたい

 その時点で14:00で、ちなみに40km先にある牧場が閉まるのは17:00です。
 私はだいたい1時間で20km走るので、迷わず、信号につかまりすぎず、体調を崩さず走ればちょうど間に合わないので、少し限界を超える必要がありますね?

 果たして私は間に合ったのか? 目指せ、リベンジ!

 

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コミュニケーションゲーム「おいジャン」(?)が面白かった話です

 こんにちは、イトーです。


 最近、社の上司の東大出身の人(私はその人を紹介するときにそう呼びます)から教えてもらったコミュニケーションゲームがありまして、それを飲み会の場で遊んで実際面白かったので備忘録として書いておきます。

 名前は忘れました。「おいジャン」とかそんな感じだった気がする。

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2017年ゲームオブザイトー

こんにちは、イトーです。

皆さまの2017年はよい年だったでしょうか?
よい年だったということは、以前までが悪い年だったということです。悪い年だったという方は、来年も悪い年かもしれません。

よくわからない話で煙に巻き、せっかくの年の瀬を台無しにしたあたりで、今年遊んでよかったゲームについて総レビューします。なぜゲームなのか? それは私がゲームデザイナーだからです。ご存じでした?

さあ、年を越す準備はいいか! 俺はすでに2018年! 皆が追い付いてくるのを待ってるぜ!

 (※注:この記事は2017年中に上げようとして、書いてる最中にうっかり年を越しました)

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異世界転生したお話です

 こんにちは、イトーです。

 

 

 風の噂では、異世界転生モノというジャンルが流行っているみたいですね。
 ご存じない方にわかりやすく説明いたしますと、いわゆる貴種流離譚みたいなものです。明快ですね?

 噂では異世界転生モノは、どんな作品も「トラックに轢かれて命を落とす」という枕から始まるとのこと。大喜利のようでステキです。妙を感じます。

 ちなみに私が最近見た異世界モノは、聖戦士ダンバインです。

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ジムをおすすめる話

 こんにちは、イトーです。

 

 いろいろと書き出しをどうするかで悩んでいたんですが、特にいいものが思いつかなかったので白状します。私、最近ジムに通っています。

 今回は運動不足や体重増加に悩む皆さまに向けて、ジム通いをいかに続けるかのオススメ法をお伝えすべく、筆を執りました。

 ジムに興味ある方が自分も行ってみようかと思えたら成功といえます。

サイコジム

 

 画像はうまいこと言おうとしてた時に探したサイコジムの画像です。特に今回は使いません。

 

 

 発端は、体重の増加でした。

 その増加幅はゆるやかなものではありましたが、このままの増加率が続けばいずれ私の体重は五年後には10kg増、更に五年後には30kg増、やがて指数関数的観点から体重はシュバルツシルト半径を超え、重力崩壊を起こし、全ての光を吸い込んで、極小のブラックホールに至るでしょう!

 その前に熱と酸欠で死ぬでしょうけど。

 いざ私を迎えたジムは、意外と清潔で、明るい雰囲気の場所でした。

 それまで私の中でのジムのイメージといえば『ファイトクラブ』の地下室みたいな暗く湿ったイメージだったんですけど。第一のルール、ジムのことを口外するな。第二のルール、ジムのことを口外するな。

 

「やあイトーさん。今日はゆっくりですね」

 ソーシャルゲームをしながらエアロバイクを漕いでいると、隣のエアロバイクから野太い胴間声。見れば、頭部が見事に禿げ上がった小太りな中年男性が汗をかいていました。
 この男性は、私がジムに通うようになってから時々話しかけてくるお人です。名前は知らないので、私は勝手に「ジムおじさん」と呼んでいます。
 運動をしながら、我々は他愛のない話で盛り上がりました。

「イトーさんはいつもエアロバイクをしているね」
 と、おじさんは妙に嬉しそうに訊いてきます。

「いやあ、私は自転車乗りですからね」
「ほう、ロードバイクにお乗りになる!」
 おじさんは少し思案顔になった後、
「だったら、自転車で外を走った方がいいのでは?」

 ゲームしながら走れないじゃないですか。それじゃ。種火集めたいんですよ。

タブレットがあるとはかどりますよ。ゲームとか、本読みながら漕げますから」
「確かに。すごいケイデンスだ」
「私は、エアロバイクも漕ぎ続ければいつかは前に進むと信じてますから」
「はっはっは。無理でしょう」

 いつも通り一時間 25km 換算のペースでエアロバイクを漕いでいると、不意にジムの奥の方から雷のような重々しい振動が伝わってきました。

 全員が一斉にその方向へ振り返り、そこに筋肉で全身が覆われたマッチョマンがいることを認めると、「またか」とばかりにすぐに各々の運動へと戻っていきます。

「また筋肉組の人がダンベルを落としたんですか」

 私はため息を吐きました。
 筋肉組、というのはジム奥でバーベルやダンベルを駆使して肉体の追求を行っている、ジムでもトップクラスの低体脂肪率を誇る面々です。
 黒光りした体躯はまるで岩石のようで、私のようなカジュアルジム勢からは恐怖の象徴として扱われています。

「全く、ジムに来て身体を鍛えるなんて、正気の沙汰ではありませんよ」
「イトーさんは筋肉組の人が苦手なのですか」
「苦手というか、本能的恐怖というか。だって、彼らが殴りかかってきたら私は死ぬじゃないですか」

 ジムで初めて彼らを見た私は、鍛えられていない細腕を乙女のようにかき抱き、卑屈な笑いを浮かべてその場を去ろうとしたものです。

「大丈夫ですよ、イトーさん。彼らは体脂肪率が一定以上低い人間しか目に映らないのです」
「そんな馬鹿な……いや」

 そうかも。
 ここ一ヶ月ほどエアロバイクを漕ぎながら彼らの生態を眺めていましたが、筋肉同士で話しているところは見かけるものの、一般人との会話は一度もありませんでした。それこそ視界に映っていないかのように。

「彼らは自分の筋肉と、他人の筋肉にしか興味がないのです。我々筋肉がない者たちは動植物か背景でしかないのですよ」

 私は平和な心持ちで60分漕ぎ終えたエアロバイクのパネルの表示を見下ろしました。60分、24km、500kcal。

 

 ※


 ジムおじさんとの他愛ない日々はのどかに過ぎていきました。

 ある日はジムの銭湯でばったり出会い、サウナの楽しみ方を教えられました。サウナで汗をかくのはあくまで工程の一つにすぎず、水風呂と交互に入ることで心身を引き締め、その後にレストルームで弛緩する感覚を楽しむことが主眼だということ。

 また高額な月ごと契約ではなく、日ごとの支払いでも通えるということ。社に健康保険があれば、割引を使って810円で通えるということ。諸々のタオルもサービスに含まれるので、持ち物はウェアとシューズだけでいいということ!(300円余計に払えばそれもレンタルできる)

 そして……替えの下着と靴下を忘れると、帰路で悲嘆にくれるということ。

 ジムのよいところも、面倒なところも、全てジムおじさんから学びました。
 この日々がずっと続くと、そう思っていたのに。


 

 ある休日、午後いちの早めにジムに行くと(ジムはなぜか休日は早く閉まります。不便)ジムおじさんを見かけませんでした。

 別に、ジムおじさんとエンカウントしないことは珍しくありません。彼だってこのジムに住んでいるわけではないのですから。
 その日は気分が向かなかったので運動せず銭湯にだけ入って、サウナを浴びて帰りました。

 その次の日もジムおじさんは来ませんでした。その次の日も。次の次の日も。

 ……確かに、少し前にジムおじさんは「仕事の関係でしばらく海外へ渡航する」と残して去りました。海外旅行経験が少なく心配する私に「なあに、大船に乗った狸のつもりでいてくださいよ」とも。それは、何とも、安心しかねますが。

 しかし海外出張期間はとっくに過ぎており、とうに彼をジムで見かけてもいい時分です。

「やあ、あなたはいつもエアロバイクを漕いでますが、それ以外はしないのですか?」

 サドルにまたがりながら考え事をしていると、隣の男に話しかけられました。
 力強い眉と、それを支える掘りの深い相貌は精悍な顔つきといっても異論は出ないかと思います。恐らく私より年上であろう男は、ここのところ見るようになった新顔です。

 思案を邪魔された私の返事は、ついぶっきらぼうになりました。

「……胸筋と、腹筋を鍛えるやつはバイクを漕ぐ前にやってますよ。50回ずつ」

 有酸素運動をする前に無酸素運動をすると、カロリーの消費効率が高いと聞いたので。

 それにしても昔はたった50回でも青息吐息の体だったというのに、今では随分軽々と行えるようになったものです。いいですよね、筋肉。鍛えただけちゃんとリザルトに反映されるというのがゲームみたいで。最近は測っていませんが、体脂肪率もきっと大分落ちたのではないでしょうか?

「…………」

 ……私はその時、上の空でした。
 上の空というか、自分の考えに出てきたある単語から、意識が離れなくなっていました。
 思考を経ずに回答を得る。望んでも得られない天啓のようなそれが、ほんの一瞬だけ自分に訪れていました。これまでの記憶と思考の蓄積が閃きをもたらしたように。

 体脂肪率。ああ、体脂肪率
 なぜ忘れていたのでしょうか。いつか、ジムおじさんは言いました。『彼らは、体脂肪率が一定以上低い人間しか見えていないのですよ』と。

 それを、私は他人事のように聞いていましたが、まさか。そんなことが。

 ジムを見渡します。いつもより人が少なく、特に恰幅のよい人間は一人も見えません。
 駆け出し、壁一面に張られた大きな窓から街を見下ろします。誰一人として人影がありませんでした。

 ああ。
 つまり、気づいていないだけで。
 私はとっくに……

「どうしたんですか! イトーさん、急に錯乱して!」
「離してください! もう私には筋肉しかないんです!」

 後ろから羽交い絞めにしてくるもやしのような新顔の男性を、鍛えた前腕筋群で振り払います。よろけた男性がバランスボールに突っ込んで、エビ反りに跳ねてマットの上に転がりました。慌てて駆け寄ろうとして、すぐに男性が起き上がったのを見て安堵します。

 鍛えた上腕三頭筋三角筋は、鍛えていない人間をこんなにも簡単に傷つけてしまいます。そうだ。誰も傷つけない場所へ行こう。筋肉しかない場所へ。

 顔を上げると、この騒ぎにも関わらずジムの奥で筋肉鍛錬にいそしむ男たちの集まる、ちょっと5℃くらい気温が高そうな空間がありました。バーベルやダンベルを持ち上げる人々は皆が笑顔で、黒光りしていて、汗できらめいて、輝いて見えました。

 そこでふと、あることに気づきます。

「あれ? あなた私の名前呼びました?」
「呼びましたが、イトーさん」

 痛そうに後頭部をさすりながら、新顔の男性が答えます。

「……どうして私の名前を?」
「いや、だから私ですよ。恵比寿です」

 誰?

「最近海外出張から帰ってきたって言ったじゃないですか」
「……もしかして、ジムおじさん?」
「誰ですかそれ。確かに事務ですけど」

 ああ、なるほど。
 つまり、入れ替わりトリック。入れ替わってないけど。

「ロスに行ってたんですけど、向こうの水が合わなくて。ずっと寝込んでたら痩せたんですよ」

 へえ、それはそれは。
 私が、東京でエアロバイクを必死に漕いでる間に。

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 なお実際は一緒にジムを楽しむ友人は存在せず、大して痩せてもなく、でもサウナは楽しいです。

 あと近寄りがたい筋肉集団は実在します。どこのジムにも、黒光りする人たちはいるのです。きっと。

 

東京から岐阜をめざして自転車で走ったお話

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 こんにちは、イトーです。


 私は子供の頃からひそかに抱いている信念がありまして、

  • 男子たるもの、いつかは旅に出ねばならない
  • 身一つで
  • 無頼に

 というわけで、夏季休暇を使って岐阜へ行きました。
 自転車で。

 いや、出発前にネットで「自転車旅行 準備」とかで検索したんですが「日本一周にはテントが役立つよ!」みたいな情報しかなくて困ったんですよね。なんで旅行=日本一周なんだよお前らは。(世の自転車乗りへの偏見)

「右も左も分からないニューピーが自転車旅行するにはどうすればいいの?」という情報が案外見つからなかったので、本稿ではそういった情報を自分向けの備忘録も兼ねて、書き残します。

 みんな俺に続け!! 

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